The Hurricane
1999年,アメリカ,145分
監督:ノーマン・ジュイソン
脚本:アーミアン・バーンスタイン、ダン・ゴードン
撮影:ロジャー・ディーキンス
音楽:クリストファー・ヤング
出演:デンゼル・ワシントン、ダン・ヘダヤ、ヴィセラス・レオン・シャノン、クランシー・ブラウン

 1960年代、ミドル級の世界チャンピオンになったルービン・ハリケーン・カーター。殺人罪で終身刑を宣告され、獄中で回想記を書く彼は冤罪を訴えていた。しかし、再審請求も却下され社会から忘れ去られた彼の本を古本位置で偶然手に入れた少年レズラはその本に強く心打たれ、ハリケーンに手紙を書く。
 人種偏見に基づく実際の冤罪事件を元にした映画。モハメド・アリやボブ・ディランも当時の映像で登場する。

 ありがちな題材といっては失礼かもしれないが、人種偏見による冤罪という、60年代アメリカらしい題材。しかし、黒人と白人の対決という面を一方的に押し出すことはせずに、静かに描く。淡々と、しかし虐げられた黒人たちの怒りと憎しみははっきりと表す。このあたりはなかなかうまい。
 しかし、逆にそのせいで映画全体が平板なものになってしまっているのかもしれない。いまひとつ山場がないので、エンターテイメント性にはかけるというところ。そしてメッセージもいまひとつ強調されない。
 私は扇動的な映画よりはこういった淡々とした映画のほうが的確にメッセージが伝わっていいと思いますが、その割にこの映画はメッセージが弱いのかもしれません。差別に反対していることは分かるけれど、結局のところ、いまのアメリカは差別もなくなっていい国になったよみたいな結論で終わってしまっている。それが事実であるかどうかは別にしても、そのあたりのメッセージ性の弱さがこの映画を平凡なものにしてしまっている要因なのかもしれません。
 でも、2時間半も長さがあるわりには飽きさせず、すっと映画に入り込めるなかなかの作品。やはりデンゼル・ワシントンに尽きるのか。人相まで変わってしまうくらい役作りに徹底しているところがすごい。せっかくだからもっとハリケーンの内面を掘り下げてほしかったところです。
 要するに、いいところはたくさんあるけれど、どれをとってもあと一歩の踏み込みが足りないというところでしょうか? 踏み込んで描くにはちょっと近過去過ぎたのかもしれません。

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