1957年,日本,99分
監督:市川崑
脚本:和田夏十、市川崑
撮影:村井博
音楽:宅孝二
出演:川口浩、笠智衆、杉村春子、船越英二、川崎敬三、小野道子

 一流大学の平和大学を卒業し、駱駝ビールに就職が決まった茂呂井は東京でのガールフレンドたちに別れを告げ、新人研修に向かう。そこで十人のうち8人までが縁故採用だと知ったが、あくまで現実的な茂呂井はそれにもめげず赴任先の尼崎で退屈な仕事をしっかりこなす。しかしそんな彼のところにははが発狂したという便りが届いた。
 川口浩主演によるコメディ。前半はあたたかい雰囲気だが後半は一転ドライでシニカルな笑いに包まれる。

 今ならばテレビドラマという感じの軽めのコメディですが、そうは言っても市川崑しっかりと画面を構成しています。特に多いのは画面の真中で正面を向いた顔。単純なアップだけでなく、後景で何かが起こっているときに、画面の前面に顔があるというようなことが多いです。その正面を向いた人々(主に川口浩)の目はうつろ。空っぽの目をしています。
 前半は決してそんなことはなく、朗らかで明るい眼をしているのですが、後半になるとうつろで空っぽの目になってしまう。それはやはりサラリーマン生活は明るさを殺していくというメッセージなのでしょう。それ自体は特段変わったことでもないけれど、それでも着実なサラリーマン生活にこだわる川口浩の姿に皮肉を感じます。
 しかし、最後まであくまでコメディで暗い気分にはさせない。その時代のことがわからない今見てどうなのかというと、どうなんだろう。「今でも共通する部分はあるよ」という安っぽい言葉は吐きたくないので、別の言葉でいいますが、結局のところ、ずっとこういう「生きにくさ」を描いた映画はあったということでしょう。自分の居場所がない感じ。居場所を見つけたと思ったら他の人にすでにとられていたり、居ついてみたら追い出されたりする感じ。そんな感じがふわっと漂ってきます。
 一見すると、世間をシニカルに見ているような感じがしますが、そういう誰もが感じる居場所のなさを描くということは、実はむしろ世の中を正面から見ているかもしれない。川口浩がまっすぐみつめる先にいる我々というのが世間であるのかもしれない。最初明るい目でみつめ、次にはうつろな目でみつめ、最後サラリーマンをあきらめた彼が再びエネルギッシュな目でみつめる正面にある世間とはつまりわれわれのことなのかもしれません。そしてわれわれもこの映画の中にある世間をまっすぐみつめることになる。
 そういうこと。かな?

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