1961年,日本,93分
監督:衣笠貞之助
原作:泉鏡花
脚本:衣笠貞之助
撮影:渡辺公夫
音楽:斎藤一郎
出演:山本富士子、勝新太郎、川崎敬三、阿井美千子

 板前の愛吉が警察官に連れられて、喧嘩の巻き添えで怪我をさせてしまった深川の材木問屋の娘夏子をおぶって病院にやってきた。夏子は治療に当たったその病院の若先生・光紀と恋に落ち、愛吉は夏子を神様に見立てて禁酒の願をかけ、足繁く病院に見舞いに通う。退院後も夏子と光紀は会うようになったが、光紀には親が決めたいいなずけがいた…
 泉鏡花の『三枚鏡』を衣笠貞之助が映画化。泉鏡花原作なので、さわやかな恋物語になるわけもなく、話はどろどろ。そのどろどろさかげんにはまっていく山本富士子と勝新太郎がとてもよい。

 いいですね、60年代、大映、このどろどろさ。衣笠貞之助はこれ!という代表作はありませんが、50年代を中心になかなか質の高い作品をとっている大映の職人監督の一人です。スターシステムというほどではないですが、この作品は山本富士子と勝新太郎を中心とした映画なので、この二人を引き立てるようにオーソドックスな映画を作り上げています。
 60年代初めといえば、「悪名」シリーズと「座頭市」シリーズが始まったころで、まさに勝新太郎がスターダムに上りつめるころ。さすがにこういう渋い作品でもいい味出してます。山本富士子のほうは、もうすでにスターの地位を確立していたころでしょうか。しかし、この2年後フリーになった山本富士子は大映の恨みを買い五社協定(大手五社が新しい映画会社への役者流出を防ぐための協定)を口実に映画界から追放されてしまう運命にあったのです。しかもこの二人は同い年。そんなことも考えながら映画を見ると、なかなか面白いものもあります。
 大映というのはどうもやくざ風情の映画会社で、永田雅一はそもそも任侠系の人だという話も聞いたことがあります。それは一面では義理がたくて、利益第一ではないという利点もありますが、他方で非合理というか山本富士子のような不条理な被害者も出てしまう。でも、やくざとか任侠系の映画に面白いものが多いのも確かで、この映画の勝新太郎もかたぎではあるけれど、義理人情のやくざ風情が映画の重要な鍵になっている。
 いろいろありますが、この映画は面白いです。山本富士子がぐっとくるものはいままで見た中ではなかったんですが、これは結構きました。20代おわりくらいからようやく役者としての味が出てきたといわれるので、このあたりが一番あぶらの乗っていたころなのかもしれません。山本富士子ファンは必見。
 あとは、泉鏡花はやはり大映の作風にあっているということでしょうか。始まりから終わりまで油断させないドロドロ感、これがなかなかいいですね。

 大映と山本富士子といえば、逸話をもうひとつ。あの小津安二郎が『彼岸花』をとるときに、どうしても山本富士子を使いたいとおもい、大映にオファーしたところ、大映の条件は「大映で一本映画を撮る」というものでした。それで撮ったのが小津唯一の大映作品『浮草』です。これは近々見る予定。『彼岸花』もみよっと。

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