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青い春

2003/9/19
2001年,日本,83分

監督
豊田利晃
原作
松本大洋
脚本
豊田利晃
撮影
笠松則通
音楽
上田ケンジ
出演
松田龍平
新井浩文
高岡蒼佑
大柴裕介
山崎裕太
鬼丸
マメ山田
小泉今日子
preview
 高校3年になった九條は、何という目的もなく何かにいらだちながら、高校生活を送っていた。いわゆる不良グループの仲間と屋上の柵につかまって、柵から手を放して何度手をたたけるかというゲームで一番になった九條はその学校の慣わしで“番長”となるが、いきがることなく同じようにつまらなそうに高校生活を送っていた…
 松本大洋の同名短編集をもとに豊田利晃が脚本を書き、映画化。松田龍平をはじめとする若手俳優を起用し「青い春」という名前どおりの青春群像劇をうまく作り上げた。
review
 短編集を原作としている、つまり物語りはオリジナルでありながらも、この映画は松本大洋の世界観をある程度スクリーン上に表現していると思える。そして同時に松本大洋の特色のひとつである内面を深く掘り下げていく描写の仕方にも追いつこうと頑張っている姿勢がうかがえる。もちろん、松本大洋の叙情的な絵がかもし出す、深みのあるキャラクター作りにはかなわないのだが、90分に満たない映画としてはなかなかうまいつくりであると思う。
 “若者”とひとくくりでいってしまうこと自体が“若者”にとっての不満や苛立ちを象徴する一つの原因になりかねないわけだが、その“若者”の典型的な姿を描いたのがこの映画なのかもしれない。映画を見る限り「典型的」とはとても思えないわけだが、これは「典型的」な若者の不満や苛立ちを一人一人の登場人物に割り当て、それを極限的に拡大したものであるのだ。だから一人一人はエキセントリックに見えるほどに極端であっても、全体としてみればいわゆる“若者”を描いているといえるのだ。
 そういう意味で言うと、この映画の主人公は松田龍平演じる九條ではなく、新井浩文演じる青木なのだと思う。九條というキャラクターは自分の苛立ちや怒りに対処するすべをどうにかこうにか身につけたキャラクターとしている。それに対して青木はどうしようもなく子供で、いまようやく若者らしい苛立ちや悩みにぶつかったキャラクターとしている。そしてその2人が関係性を変化させていく中で、青木はぐんぐん成長し、九條も成長していく。
 高校3年というまさに、コドモからオトナへと変化する瞬間を捉え、しかもその変化をわずか数日あるいは数週間に凝縮する。そこで殺されるものはコドモであって、生き残るのがオトナなのか? オトナでありながらコドモの体を持つ花田先生はこの映画にいったい何を与えているのか。“若者”であるとはいったいどのようなことなのか。
 いま“若者”であるひとよりも、むかし“若者”であった人たちにこそ「若者とは何か」ということを考えてほしいのだということがこの映画からは伝わってくるような気がする。自分が“若者”であった時、いったい何を考えていたのか。その時自分は、自分の中の何を殺し、何を生かしてきたのか。その時殺してしまったその「何か」を本当に殺してしまってよかったのか。“若者”の感性を失わず悩み多きオトナであることは難しく、つらいけれど、すばらしいことなのではないか。そんなロマンティックなことを考えてみたりもする。

 “若者”にはオトナにはない感性がある。苛立ちや怒りはオトナには見えない美しさをモノの中に見つけるのかもしれない。そのような“若者”の感性がオトナの社会や文化にも変革を起こしてきた。などと書くと少々大げさだが、とにかく研ぎ澄まされた“若者”らしい感性ははっとした美しさを見出すのだ。この映画にもそんなシーンがいくつかあり、ハッとすることもあった。
Database参照
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監督順: 
国別・年順: 日本90年代以降

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