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東京暮色

2004/1/29
1957年,日本,140分

監督
小津安二郎
脚本
野田高梧
小津安二郎
撮影
熱田雄春
音楽
斎藤高順
出演
原節子
有馬稲子
笠置衆
山田五十鈴
杉村春子
高橋貞二
田浦正巳
藤原釜足
山村聡
preview
 銀行の重役杉山は娘の明子と二人暮しだが、そこに嫁に行った娘の孝子が娘を連れて帰ってくる。孝子は旦那の沼田とうまくいっていないようで、なかなか帰ろうとしない。明子は悩みを抱えているようで、ボーイフレンドの木村を探しているがなかなか出会うことができない。そんな時、麻雀屋のおばさんが明子にやけに興味を持ち、明子は幼いころに分かれたお母さんではないかと思い始める…
 いつもと変わらず小津映画のメンバーで、いつもと変わらぬ父娘の物語かと思わせるが、その内容はどしりと重く、迫力さえ感じさせる。
review
 この映画は圧倒的である。小津の映画に「すごい」と思わせる映画は多いが、内容からいえば、静謐としていたり、ほのぼのとしていたり、淡々としているものが多い。静かな中で父と娘の関係が変化し、それぞれの思いがはじけ、えもいわれぬ味わいが画面に滲み出す。
 しかし、この映画は圧倒的である。笠置衆と原節子のいつもの父娘関係の中に有馬稲子を放り込み、二人の関係を内側から突き崩していく。それは杉村春子が演じるいつもの脇役とは違うし、父娘の関係との対比として現れる山田五十鈴との役どころとも違う。
 有馬稲子演じる明子がとらえどころのない若者であるということは、いつも小津が語ろうとしていると思われる古の日本的な親子の関係の崩壊を端的に示すものであるように一見すると見える。しかしそれは若者とそして変わり行く社会のせいであるとは必ずしもいえない。すべての変わり行くものと変わらないもの、すべての人はある部分では変わり、ある部分では変わらない。非常に変化の激しい社会の中で、その変わり方のギャップがギクシャクした感じを生む。笠置衆と有馬稲子の父娘、原節子と有馬稲子の姉妹、そして笠置衆と原節子の父娘、そのすべての関係の中に存在するギクシャクとした感じは、変わり行く社会にそれぞれがどのように対応しているのかという変わり方の差から生じるギクシャクであるように思える。
 その違いをどのように克服していくのかが映画の見所といいたいところだが、結論を言ってしまうと、この物語はそれを最後まで克服できない。それぞれが変わってしまった自分にとっていいと思うことに向かって進む。しかし、それが家族を再集結させることにはつながらない。もちろん、てんでバラバラというわけではないが、ひとつの悲劇を経て、それぞれがそれぞれの道を歩むことになる(ネタばれになるので具体的にはかけませんが)。

 それは小津が日本的な親子像/家族像に見切りをつけたというようにも見えなくはない。それはある意味ではそうだ。しかし、小津は常に変わり行く社会を見つめ続け、その中で家族がどのようにあるのかをリアルに描いてきただけなのだ。たしかに古の日本的な家族像に憧れというか、理想のようなものを持っていたかもしれない。しかし、変わり行く社会の中で、そのような失われてしまったものに理想を抱き続けるのはノスタルジーでしかない、ということに小津は気づいていた。それを描き続けることは欺瞞でしかない。虚構でしかない理想を旗印に掲げても、その映画は「嘘」にしかならない。
 社会の観察者としての小津の真価は、このようにして変わり行くことにある。小津の映画は変わらぬスタイルというものはあるが、その内容は時の流れとともに変化していく。この映画はそんな変化のひとつであり、変化しているということをもって小津らしいともいえるのだ。
 そしてそんな変化を劇的にもたらしたのが有馬稲子である。彼女の演技はそれまでの小津映画の登場人物たちとはどこか違う。その違和感が端的に「変化」というものを表現しているように思える。
Database参照
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監督順: 
国別・年順: 日本50年代以前

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