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フレンジー

2004/12/19
Frenzy
1972年,イギリス=アメリカ,117分

監督
アルフレッド・ヒッチコック
原作
アーサー・ラバーン
脚本
アンソニー・シェイファー
撮影
ギル・テイラー
音楽
ロン・グッドウィン
出演
ジョン・フィンチ
アレック・マッコーウェン
バリー・フォスター
バーバラ・リー=ハント
アンナ・マッセイ
ビリー・ホワイトロー
preview
 テムズ川に若い女性の絞殺体が上がった。ロンドンを騒がせる“ネクタイ殺人”の新たな犠牲者である。そのころロンドンのパブに勤めるリチャード・ブラニーは勤め先をクビになり、友人のラスクを訪ねる。さらに残り僅かな金で酒を飲みいい気分になった彼は結婚相談所を経営している別れた妻のところに行く…
 ヒッチコックが久々にイギリスに戻り、サスペンスのシンプルな味わいを取り戻した作品。スピーディーな展開がさすがにヒッチコックという感じ。
review

 この作品は非常に正統派のサスペンスという感じがする。ヒッチコックのサスペンスはいつも謎解きの興味よりも、登場人物の心理が面白みを生む。この作品でも犯人は比較的すぐ察しがつくし、実際に犯人が明らかになるのも映画が序盤から中盤に差し掛かるくらいである。だから犯人の名前をここに書いてもネタばれにはならないと思うから、というわけではないが、ネタばれしていくので、どうしても知りたくないという人は映画を観てから読んでね。

 まず、この映画をサスペンスと考えた場合に、それにはそぐわない場面が映画の序盤にある。それは失業し、金もなくなり、くさくさしたリチャードがラスクの家の下を通りかかったときに母親を紹介されるという場面だ。この母親はサスペンスとはまったく関わりがない。しかし、このエピソードは実は重要だ。映画の後半でラスクの部屋が出てきたとき、そこには母親の写真が飾られ、ラスクは母親を褒めやそす。
 ここには、ヒッチコックのひとつのパターン、『サイコ』を典型とする異常者型の犯人像のパターンである母親による心理的脅迫が表れている。母親を愛しているがゆえに正常な女性関係が結べない(いわゆるマザコンの)男性が異常と言える犯罪を起こすというパターンである。だから、ヒッチコック映画を見慣れていれば、ラスクがリチャードににこやかに母親を紹介した時点でラスクが犯人だと察しがつく(ヒッチコック自身が自分のパターンの裏をかくために、あえてそのようなシーンを挿入したという深読みも出来なくはないが)。
 ラスクは、その母の抑圧から逃れるためロビンソンという別の人間を創出し、彼にサディズム的な性的傾向を持つ人格を代替させる。それが結果としてネクタイ殺人に結びつくというわけだ。
 そこまでは非常にわかりやすい。しかし、この映画で描かれる殺人はそれほど単純ではない。この映画で描かれる犯行ではロビンソンはラスクに近づきすぎている。ブラニーの存在を通してロビンソンとラスクが近づきすぎ、それまでは安全であったラスクに危険が迫る。その結果、彼は単純なミス(ブローチをなくすこと)を犯してしまう。そして彼は犯行を暴かれる。
 そこで重要な役割を果たしているのは捜査官の妻である。彼女はここでラスク自身の母とは別のもう一人の超越的な母の役割を負っているように見える。彼女はラスクの心理を見透かしている。ラスク=ロビンソンは(あるいはラスクは)実はそのようなもう一人の超越的な母によって解放されていることを待ち望んでいたのではないだろうか。ネクタイ殺人という行為も、そのような超越的な母を求め、しかし裏切られ、その結果相手を殺すという行為に及ぶという行動の連続だったのではないだろうか。

 この映画ではどうも主人公であるはずのブラニー(無実の罪を着せられる男)の存在感が薄く感じられるが、それは結局彼がこの心理劇にはほとんど寄与していないからである。彼はラスク=ロビンソンの症候あるいは異常を世間の目にさらす媒介に過ぎないのである。彼が物語を展開させてはいるが、彼の役目はそのように物語を展開させることしかない。
 もうひとつ役割があるとすれば、「フレンジーfrenzy」というタイトルが意味する「逆上する」という意味を負うということだ。彼は逆上するキャラクターを演じることで、自分が主人公であることを宣言する。しかしそれは、ラスクという真の主役から最初は眼をそらしておくためのまやかしに過ぎない。
 実はヒッチコック映画の無実の罪を着せられる男とは、基本的にそのような役割の場合が多い。二枚目で人々を魅了するが、本当の主役ではない。それが具体的にどのようなことなのかは『間違えられた男』などで検証したい。

Database参照
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