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殺人狂時代

2005/5/5
1967年,日本,99分

監督
岡本喜八
原作
都筑道夫
脚本
小山英
山崎忠昭
岡本喜八
撮影
西垣六郎
音楽
佐藤勝
出演
仲代達矢
団令子
砂塚秀夫
天本英世
滝恵一
preview
 精神病院を営む溝呂木は大日本人口調節審議会なるものを秘密裏に設立し、ナチスの残党とともに人口調整のために無駄な人間を殺すことを計画していた。犯罪心理学者の桔梗信治のところにも間淵という殺し屋が差し向けられるが、間淵は桔梗の亡き母のブロンズ像にぶつかってあえなく死んでしまう。しかし、その後、桔梗に次々と殺し屋が差し向けられる…
 都筑道夫の「飢えた遺産」を岡本喜八が監督したアクション・コメディ、仲代達矢の飄々とした演技が非常にいい。チャップリンの『殺人狂時代』とはまったく関係はない。
review

 まず目に付くのは映像の奇妙さだ。映画の序盤に登場する、捌かれる肉の塊越しのショットなど、常軌を逸したと言うしかないようなショットが続出する。しかし、これはなぜ奇妙なのだろうか。この画面の奇妙さというのはそのまま映画というものの、フレームというものに切り取られた映画の本質的な奇妙さなのではないかと思う。つまり、人間の視線を基準とするならば、映画の映像というのはそもそも歪なものであるのだ。人間の視線は焦点となるものに向けられると、それ以外のものは見えているようで見ていない、見ていないようで見ているというような状態に置かれる。
 映画もそのような視線の機能を再現するために様々な工夫を凝らす。広角レンズを使う、フォーカスを動かす、移動する被写体を追う、などなどとにかく何かが画面の中で焦点となるようにするわけだ。しかし、この映画では焦点となるべきものに焦点が置かれないというわけだ。先ほどの前景で肉が捌かれているシーンでは本来焦点を結ぶべきなのは奥の会話であるはずなのに、画面上は肉の塊に焦点が合ってしまっているというわけだ。
 このような焦点のずれというのは、レンズの前にあるものすべてを写し取ってしまうカメラというものの本質的な問題である。誰だってスナップ写真を撮ろうとして手前を歩いている関係ない人にピントが合ってしまったりといった経験があるだろう。この映画はそのようなズレを利用して奇妙さを演出し、さらには可笑しさを演出しているわけだ。

 しかし映画が進むにつれてその奇妙さは徐々に影をひそめ、まっとうなアクション映画になっていく。仲代達矢演じる桔梗信治はいつの間にやら立派に殺し屋と対抗できるキャラクターに仕立て上げられてしまい、その脇には2人の仲間がついて、ぐんぐん面白くなっていくのだ。次々とやってくる危機をいかに乗り越えるか、それはいわば007的な面白さ、本格的なアクションの王道ともいえる面白さである。
 そしてさらに、いったい誰が仲間なのかというサスペンス的な要素も加わってくる。近寄ってくる人々すべてが敵なのか、それとも味方もいるのか、あるいは味方だと思っていた人が実は敵なのかもしれない、そんな猜疑心が募って行く。

 そのように猜疑心が高まっていく理由のひとつに、桔梗が相手にしているのが「狂人」であるということがある。人口調節などという名の下に、人間を殺すことを(勝手に)正当化する狂人の集まり、それを相手にしていることがわかることで、ますます相手が何をやってくるのか予想がつかず、疑いばかりが募るのだ。
 そしてこの「狂人」概念は、映画に大きな意味を与える。
 この映画が非常にこだわっているように思えるのはヒトラーとナチスだ。いきなりナチスの残党のブルッケンマイヤーなんてのが出てきて、溝呂木はヒトラーのことを偉大な狂人と呼ぶ。これによって結び付けられるのは、狂人-殺人-戦争という構図である。これは狂人と殺人を結びつけようという意図ではなく、殺人あるいは戦争がいかに狂気と結びついているかということを語ろうとしているように思える。
 自身も戦争を経験した岡本喜八が戦争をどう捕らえていたのかはわからないが、この映画を観る限り戦争なんてものは「狂気の沙汰」だと考えていたのではないか。戦争というものを考えるとき、どうしても「狂気」というものを考えずに入られなかったのではないか。そしてそれが意味することは戦争が「正気」であるはずのわれわれからは遠いということではなく、戦争によってわれわれは容易に「狂気」に陥ってしまうという複雑化された心理だったのではないか。
 話がややこしくなってきたが、要約して言えば、基本的に戦争なんてものは狂わないと出来ない、しかし戦争はわれわれを簡単に狂わせてしまう、ということである。つまりここに存在するのは狂気と戦争の拡大再生産である。 

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: 日本60~80年代

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