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トンネル

★★★星星

2006/6/16
Der Tunnel
2001年,ドイツ,167分

監督
ローランド・ズゾ・リヒター
脚本
ヨハンヌ・W・ベッツ
撮影
マーティン・ランガー
出演
ハイノ・フェルヒ
ニコレッテ・クレビッツ
セバスチャン・コッホ
マフメット・クルトゥルス
フェリックス・アイトナー
preview
 1961年ベルリン、東ドイツで水泳のチャンピオンとなったハリーは東西ベルリンが分断されるその夜、親友のマチスらと西への脱出を試みる。マチスだけが脱出に成功し、マチスの妻カロラは捕まるが、ハリーはマチスの協力で後日脱出に成功する。そして、ハリーとマチスらは東に残してきたカロラやハリーの妹ロッテの脱出のため、145mにもわたるトンネルを掘ることを決意する…
  東西ドイツ分裂時代の実話をもとにしたサスペンス・ドラマ。ステレオタイプ化されすぎている感はあるが、緊迫感とスリルはさすがのもの。
review

 この作品は3時間近くと長いのだけれど、その長さを感じさせつつも、観客をあきさせないだけの面白みはある。それは、ある意味では西と東のステレオタイプ化、スパイ国家である東と民主国家である西。そのスパイ国家である東から、その犠牲となっている人々を救い出そうという英雄譚にこの物語は完全になっているために観客が容易に物語りに入っていけるのである。
  そして、そのようなステレオタイプもある程度は真実だっただろう。離れ離れになった家族、密告の横行、役人の腐敗、そのような悲劇は実際に存在し、だからこそ命をかけてでも家族や愛する人たちを西側へ脱出させようという人々が多くいたのだ。
  しかし、それは絶対的な考え方ではない。全ての世界が資本主義化しようとしている今、今はなき共産主義国というのは過去の遺物であり、諸悪の根源であったと考えられてしまっている。今も残っている共産主義じみた国々はどこもかしこも独裁国家であり、非人道主義的な国家である。しかし、それは共産主義の必然的な結果ではないはずだ。少なくとも、当時の人々はそのように考えていなかった。大佐のように信念を持って国家に奉仕している人もいれば、テオのように仕方なく従っている人もいただろうが、とにかく彼らは悪人ではなかった。
  東ドイツは強制収容所ではない。西側から見れば自由がないというだけで決してその国民は囚われ人ではないのだ。
  この映画はそのあたりのことは描かない。この映画を観ていると、全ての人が西側へ行きたがっているかのような錯覚に陥るが、そうではない。ハリーのように主義主張を持つ人、家族が離れ離れになっている人は西へ行きたがっただろうが、もちろん東で生きて行くことに特に不満のない人たちもいたに違いないのだ。

 こんなことを書きながらも、私はこの物語に入り込み、必死に西に脱出しようとする人々の身になり、大佐や東ドイツの兵士たちを恨みがましく見つめた。それは、この映画を楽しむやり方としてそれが一番いい方法だからだ。
  しかし、そうしながらもこの映画が孕む一方的な視線、もうなくなってしまった東ドイツに対する不公平な考え方にも想いが行く。ドイツはなおも東西の経済格差が問題になっている。その多くは東ドイツという国家の失策によるもの、あるいは上層部の腐敗によるものだった。その国で貧困の中暮らしてきた人々の多くは今もまだ貧しさの中にいるということである。東西ドイツが統一されて15年がたったが、ドイツはまだ分裂したままなのだ。東ドイツに残された人々を西ドイツの人々はこのハリーたちのように救おうとはしない。
  それでも東ドイツの人々は、その頃よりは自由があるし、多少は豊かな暮らしが送れるようになったかもしれない。しかし、そのような不公平は存在し続ける。それが資本主義のシステムなのである。そして彼らは資本主義に不満を持っていてももはやどこにも脱出することはできない。もう誰もトンネルを掘って救ってくれる人はいないのだ。

 この物語はハッピーエンドを迎えているようでいて、様々な悲劇的な結末も含んでいる。その暗さがどうしてもいろいろのことを考えさせてしまう。どう考えても不必要だったハリウッドの撮影クルーもなにか暗いメッセージを含んでいるように思えるのだ。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: ドイツ

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