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ミリオンダラー・ベイビー

★★★.5-

2006/12/6
Million Dollar Baby
2004年,アメリカ,133分

監督
クリント・イーストウッド
原作
F・X・トゥール
脚本
ポール・ハギス
撮影
トム・スターン
音楽
クリント・イーストウッド
出演
クリント・イーストウッド
ヒラリー・スワンク
モーガン・フリーマン
アンソニー・マッキー
ジェイ・バルチェル
マイク・コルター
preview
 ロサンゼルスにあるジムを経営するフランキーは有望選手のウィリーを手塩にかけて育ててきたが、選手を大事にするあまりなかなかチャンピオン戦に挑戦させないフランキーに業を煮やしてウィリーはフランキーの元を離れてしまう。そんな中、31歳の女性ボクサー、マギーが弟子入りを志願する。女は相手にしないとフランキーは突っぱねるが、相棒のスクラップは彼女の素質を見抜いていた…
  クリント・イーストウッドが2度目のアカデミー監督賞を受賞したほか、アカデミー主要四部門を受賞した感動作。
review

 一人の女性のサクセス・ストーリーを描いたこの作品は、一見すると、古い価値観を持った旧世代がひとつの経験を通してその偏見を捨て、新たな価値観を手にする物語であるように見える。それはもちろん、クリント・イーストウッド演じるフランキーの女子ボクシングに対する偏見、そして女性に対する偏見という意味である。ヒラリー・スワンク演じるマギーのひたむきさがフランキーの女性に対する偏見を捨てさせ、心を開かせたと。
  そして、そのように読み取るとき、この物語にはアメリカ社会が抱える差別と偏見の構造が垣間見える。それは根強い女性蔑視(そのひとつの象徴としてアメリカがドメスティック・バイオレンス王国であるということがあげられる。アメリカでは女性の4人に1人がドメスティック・バイオレンスを経験したことがあるという。)と人種差別の構造である。
  この物語においてマギーをまず見出したのはフランキーの相棒スクラップである。フランキーもスクラップも共に60代から70前後の設定だと思われるが、スクラップがその世代の黒人であるとうことはつまり、彼が公民権運動をもろに経験した世代であるということだ。おそらく彼は差別と偏見の残る中、自らのこぶしで道を切り開くためにボクシングに命を懸けた。その彼だからこそ貧困の中から這い上がるためにボクシングに情熱を注ぐマギーの心を感じ取ることができたのだ。

 とはいえ、それはこの映画が語ろうとしていることではない。この作品はそのような観念的なことよりもむしろもっと現実的なことを語る。フランキーがマギーを受け入れたのは彼女が練習費用を6か月分前払いしたからである。資金繰りに苦悩する彼はお金を払ってくれれば女でもとりあえず受け入れる。それは非常に現実的であると同時にアメリカ的でもある。全ての価値を決めるのはお金だという徹底的な後期資本主義的な考え方がそこにはある。
  そして、そのことはこの作品を通してずっと語られ続ける。ここで問題になるのはまずお金なのだ。マギーは別に大金を稼ぐために闘っているわけではないが、彼女の成功を証明するものはお金しかない。だから彼女は稼いだお金を貯金し、無駄にはしない。フランキーは「まず自分を守れ」とくり返し言う。それは単にボクシングの戦術ではなく、生き方全てに通じる格言である。このお金が全ての価値を決める社会では自分を守るとはまず、自分のお金を守ることである。
  そのようなリアリスティックな語りがこの作品の非常に大きな魅力である。このように現実を語れる映画作家というのはもはやハリウッドにはほとんどいないだろう。その意味でイーストウッドはやはり偉大な映画作家である。

 しかし、そんなイーストウッドも完全に現実主義的なわけではない。現実をリアリスティックに描きながら彼は最終的にはヒロイズムに浸りたいという欲望に抗えないのだ。この物語も最終的にはヒロイズムのカタルシスがやってくる。厳しい現実は彼らを打ちのめすが、それでも彼らはひとつのことに殉ずるヒーローであるのだ。そのカタルシスが彼の作品を「受ける」ものにもしているのだ。
  しかし私はこのカタルシスにどうも居心地の悪さを感じてしまう。それは私がへそ曲がりなのか、それともそこに根本的な誤謬が存在しているということなのか、それはなかなか判断がつきにくい。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: アメリカ2001年以降

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