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ベストセラー

ジャケット

★★★.5-

2007/1/22
The Jacket
2005年,アメリカ,103分

監督
ジョン・メイバリー
原案
トム・ブリーカー
マーク・ロッコ
脚本
マッシー・タジェディン
撮影
ピーター・デミング
音楽
ブライアン・イーノ
出演
エイドリアン・ブロディ
キーラ・ナイトレイ
クリス・クリストファーソン
ジェニファー・ジェイソン・リー
ケリー・リンチ
ダニエル・クレイグ
ブラッド・レンフロ
preview
 湾岸戦争で重傷を負い、脳に障害が残ってしまったジャックがアメリカに帰って1年後、ヒッチハイクした車が警察に止められ警察官が殺された。犯人に仕立て上げられたジャックは心神喪失で無罪となるが、精神病院に強制入院させられてしまう…
  エイドリアン・ブロディとキーラ・ナイトレイが共演したセクション8(ジョージ・クルーニーとスティーヴン・ソダーバーグのプロダクション)製作のサスペンス・ドラマ。
review

 流行のサイコサスペンス、記憶喪失ものの一つだが、かなりヒネリが効いている。主人公のジャックは前向性健忘だが、全ての記憶が失われるわけではなく、断片的に記憶が失われ、時にそれがフラッシュバックのように戻ってくる。その彼が犯罪者専門の精神病院に入れられるわけだが、彼はもちろん精神異常などではなく、記憶が混乱しているだけなのだ。
  そして、不必要な拷問とも言える治療を受けた彼の精神はついに未来へと行く。普通に考えればそれは妄想であり、想像に過ぎないはずだが、この映画ではその妄想の中での未来へのタイムスリップが現実に対して影響を与え始めるわけだ。
  この展開はかなり荒唐無稽だ。SFと言えばSFだが、そのようなことが起きる仕組みがまったく説明されていないし、その必然性もない。ジャック自身そのことが起きた理由を説明できないし、未来へと逃避することを望んでいたわけでもない。にもかかわらずそれが「起きた」というのはそこに何らかの外的な意味あるいは力が加えられているはずである。それが「起きた」ことによって何らかの結果がもたらされ、それがジャックの人生を一つの閉じた輪となるように“神”の手が下されたといえるような状況にならなければならないはずだ。
  ここで物語りは最初に戻る。この物語は「僕が最初に死んだのは27歳だった」という言葉ではじまる。つまり、彼はここで死んだはずなのに、実際は生き続けてしまった。それには理由があり、彼は何らかの目的のために生かされたということだ。彼はイラクでイラク人の少年に撃たれて“死ぬ”のだから、彼のそれからの生はこの少年を救うためにあるべきだ。あるいは彼を殺さざるを得なかった少年のような境遇にある人々を救うために。そして彼はアメリカに戻ってすぐ、救われない境遇にある少女にであう…
  ここまで来ればこの物語の持つ意味は明らかだ。非常にキリスト教的色合いの強い考え方ではあるけれど、死んだジャックが現世に残した思いは復讐ではなく救済であったということだ。全ての場所と時間に偏在する“神”は彼にその機会を与えた。そのために時間の因果関係も歪め、彼に一人の少女を救済させることで彼を救済したのだ。

 この物語を解釈するためには、このように“神”を登場させることが一番便利というわけだけれど、実際のところこれはすべてジャックの頭の中で起こったことかもしれない。すべてが彼の混乱した記憶が築き上げた虚構でしかないという可能性も否定はできないのである。もしそうだとしたら、まったく救われない話だけれど、それでもジャック自身は救われたはずだし、そのようにひとつの解釈を押し付けず、見る側に解釈をゆだねるところがこの作品の誠実なところであり、いいところであると私は思う。
  タイムトラベルをかっちりと事実だとしてしまうことなく、荒唐無稽な出来事として残しておくことで、観客はそれを解釈せざるを得なくなり、そこから物語の意味を探る。そして、それを探り始めると、物語の全体像が見えてくる。それがこの作品が見る側に仕掛ける仕組みなのだ。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: アメリカ2001年以降

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