更新情報
上映中作品
もっと見る
データベース
 
現在の特集
サイト内検索
メルマガ登録・解除
 
関連商品
ベストセラー

コード:アンノウン

★★★.5-

2007/3/6
Code Inconnu: Recit incomplet de divers voyages
2000年,フランス=ドイツ=ルーマニア,113分

監督
ミヒャエル・ハネケ
脚本
ミヒャエル・ハネケ
撮影
ユルゲン・ユルゲス
音楽
ジバ・ゴンサルブ
出演
ジュリエット・ビノシュ
ティエリー・ヌーヴィック
ゼップ・ビアビヒラー
アレクサンドル・ハミド
preview
 パリに暮す役者のアンヌのもとを訪ねてきたのは恋人ジョルジュの弟ジャン、田舎の父のところから家出してきたという彼は通りでホームーレスの女性とアフリカ系の青年との間で面倒を起こし、警察が呼ばれる。物語はそこから広がって行く…
  ドイツ出身の鬼才ミヒャエル・ハネケがヨーロッパにくすぶる移民問題を題材にした社会派ドラマ。断片的なシーンをつなぐことで、行間に様々なことを語りこむ。
review

 この映画はほとんどがワンカットのシーンによって構成されている。そしてその一つ一つのシーンは断片に過ぎず、何かの物語を作り上げるわけではない。時にセリフの途中など唐突に終わるこれらのシーンと次のシーンの間にはほんの数秒(おそらく長くても3秒)のブラックアウトが挟み込まれる。この尻切れトンボなシーンはこの真っ黒い画面に飛沫のような残滓を残して行く。突然消えた映像は残像として画面にしばし残り、見る側の思考は登場していた人々についてめぐらせた推察を続ける。
  しかし、その推察は結論が出ないまま次のシーンが始まってしまう。そしてそのシーンは新たな謎を生み、また次のシーンが始まるというくり返しによって映画は続いて行くのだ。結果、映画を観終わってもたくさんのクエスチョンマークが頭の中に漂っていることになるのだが、これらの断片は決してバラバラなわけではなく、モザイク状に構成されているので、ぼんやりとした中心も存在しているように思えるのだ。

 物語の全ての発端は2つ目のシーンにある。ここでアンヌとジャンが登場し、ジャンがごみをホームレスの女性に投げつけて、それに対してアフリカ系の青年が絡む。そして、このアンヌ、ジャン、ホームレスの女性(のちに不法滞在の移民マリアとわかる)、そしてアフリカ系の青年(のちにマリからの移民アマドゥとわかる)が複数の断片をつなぐ縦糸として機能して行くのだ。
  アンヌは恋人のジョルジュがコソボへ報道記者として行っていることで、先進国と戦争との関係を象徴し、同時に男女の関係についても示唆を与える。ジャンは田舎から出たがっている若者であり、都市と地方の関係を象徴する。マリアは不法移民(おそらくルーマニアかハンガリーあたりからの移民)であり、ヨーロッパ内の格差と移民問題を示唆する。アマドゥはアフリカ系フランス人であり、彼も移民問題を示唆すると同時に人種差別の問題、さらには聴覚障害者の問題も提示することになる。
  この映画はこのようにして次々と問題をわれわれに提示し、それを投げ出す。しかも、この映画はまったく親切ではないから、それらの関係性はしっかりとそれぞれの断片を咀嚼していかなければわからないようになっているのだ。一つ一つの問題を咀嚼したわれわれはそれについて考えざるを得なくなり、たくさんの問題を背負い込むことになるのだ。

 それはもちろん解決することはできない。しかし、この作品は最後に地下鉄を使ったふたつのエピソードを効果的に配している。一つはジョルジュが首からカメラを提げて、正面に座った人の写真を次々と隠し撮りするというエピソード、そしてもう一つはアンヌがアラブ系のチンピラに絡まれ、それをアラブ系の初老の男が叱責するというシーンである。ジョルジュのエピソードでは“隠し撮り”という他者とのかかわり方も示唆的だし、後にスライドショーのように写し出される人々の顔は、パリが人種の坩堝であるということを視覚的に強く印象付ける。そしてアンヌのエピソードは人種という単純な枠によって人々をとらえることがふさわしいかどうかという疑問を投げかける。
  ミヒャエル・ハネケの作品はすごく暗いし、どこか怖い。しかし、このように眉間にしわを寄せて映画が語ろうとしていることを必至で考え、その語りの行く末について考察するというのも映画のあり方として非常に面白いものだ。噛み砕いてしまうと“社会派”的な描写ということになってしまうが、その底には存在論的な問いが隠されているような気もする。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: フランス

ホーム | このサイトについて | 原稿依頼 | 広告掲載 | お問い合わせ