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戦争の子供

★★★★-

2007/7/20
Warchild
2006年,ドイツ=スロベニア,103分

監督
クリスチャン・ワグナー
脚本
エジン・H・ハジマホビッチ
撮影
トーマス・マウホ
音楽
コンスタンチア・グルジ
シャベール・ノーダシェ
出演
ラビーナ・ミトフスカ
セナド・バシッチ
カトリン・ザース
クレセンティア・デュンセル
ミランダ・レオンハート
preview
 サラエボで不動産屋に勤めるセナーダはお客の忘れた雑誌に見覚えのあるバスの写真を見つける。内戦中に行方不明になった娘のアイーダを探す手がかりがそこにあるのではないかと考えたセナーダは調査を続け、娘がヨーロッパにいるのではないかと考える。そしてセナーダはアイーダの父サミールに車を売らせて、国境を越えるが…
  ボスニア内戦の傷跡を離れ離れになってしまった母娘を中心に描いたヒューマンドラマ。ボスニアの悲惨な歴史、人間と人間の関係、記憶、格差、それらがしっかりと描かれていて見ごたえがある。
review

 この映画を見ると、映画というのは連続するイメージであるということを思い起こさせられる。映画の始まりはボスニア内戦当時の風景であり、その後時間は現在へと飛んで、お墓、サッカーをする少年、廃墟を買いに来た外国人、バレーボール、クラブ、といったイメージが立て続けに流される。そこには何の説明もない。場所はセナーダの背景に映る“SARAJEVO”という文字で示唆されるだけだし、彼女の過去も、彼女と周囲の人たちとの関係も説明されることなく、ただイメージだけが次々と提示されるのだ。そして、セナーダの生活は雑誌に載った一枚の写真、一片のイメージによって一変する。
  この映画はイメージが人を変えうるということを語り、その語りはじめによってしなやかに物語の核心へと進んでいくのだ。その後も様々なイメージがわれわれに語りかける。山盛りの鰯、山の上から見たイタリアの街、いつもまったく変わらないセナーダの服装、ホテルの看板の「ドブロブニク」という文字(ドブロブニクは現在のクロアチアの街、つまりボスニアと同じく旧ユーゴであり、このホテルを経営しているのもおそらく旧ユーゴからの移民または難民であると想像できる)。シートの上に落ちたボタン(血のようにも見える)、セナーダの部屋にかかった「最後の晩餐」の絵。
  それらのイメージは様々なことをわれわれの中に喚起し、物語はそこにさらに具体的な問題を付け加える。セナーダがドイツで出会った人道的で親切な児童福祉局の職員は彼女たちに同情と思いやりを寄せている。しかし、現実は彼女の想像をはるかに超えているだろう。そのことにセナーダとマリヤ(ホテルの女主人)はため息を突き、鋭い視線を投げかけるしかないのだ。そして、この会話の中で決定的な瞬間が訪れる。それは児童福祉局のフラウがボスニアの「レイプ収容所」についても知っていると語り、そこに青いランプが灯っていたと語ったのに対して、セナーダが「黄色だった」とボソリともらす瞬間だ。このとき、私たちの頭の中で生み出される黄色いランプのイメージはこの物語のすべてを黄色い光で照らす。われわれはフラウと同じく、彼女たちの経験を想像することはできない。懸命に想像力を働かせようとしてもわれわれの想像力は現実に及ばないのである。
  その想像力の無力さはセナーダと養父母との関係にも及ぶ。フラウも彼らも決して悪人ではないし、どちらかといえば善人である。しかし、それでも想像力が及ばないがゆえにセナーダを傷つけてしまう。彼ら(とそしてわれわれ)がまずしなければならないのは、想像力も及ばない現実が存在するというその事実に思いを及ばせることだ。もちろんそれですぐに問題が解決するわけではないし、彼らの経験の悲惨さに対してわれわれがすべてを譲歩すればよいというわけでもない。われわれはまず想像も及ばない悲惨な現実を生きた人々との関係の作り方を学ばなければならないということだ。
  日本にいるとそれは遠いことのようにも思えるかもしれない。しかし、日本人は長い時間をかけて広島、長崎の想像を絶する経験を共有する努力をしてきた。それを経験していない大部分の日本人はその悲惨さを想像することはできないが、それが想像を絶する悲惨な経験であったということは知っている。アウシュビッツも、カンボジアも、サラエボも、ルワンダも、広島長崎と同じように想像を絶する現実がそこにあったのだ。そう考えると、このセナーダの経験にも少し手が届きそうな気がする。

 ボスニアについてはイザベル・コイシェの『あなたになら言える秘密のこと』もそれを重要なファクターとしていた。ボスニアのレイプ収容所を描いた映画は1996年の『ボスニアの真実』に始まるが、それから10年、ようやく劇映画として語ることができるようになったということだろうか。『ボスニアの真実』もこの作品も日本ではほとんど見られる機会はない。『あなたになら言える秘密のこと』がこの作品も含めた作品をポピュラーにし、さらに作品が作り続けられ、見られ続けられることが重要なのだ。

Database参照
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国別・年順: ドイツ

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