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20th TIFF

帰郷

★★★.5-

2007/12/5
落葉帰根
2007年,香港=中国,100分

監督
チャン・ヤン
脚本
チャン・ヤン
ワン・ヤオ
撮影
ユー・リクウァイ
ライ・イウファイ
出演
チャオ・ベンシャン
ホン・チイウェン
ソン・タンタン
フー・ジュン
preview
 チャオが乗った深せんから重慶に向かうバスにバスジャックが乗り込んで来る。チャオは隣の男が実は死んでしまっていることを告げ、バスジャックを追い払うことに成功するが、他の乗客に気味悪がられ、バスを降りることになる。チャオは友だちのリュウの遺体をふるさとに帰るべく、ヒッチハイクと徒歩で旅を続ける。
  『スパイシー・ラブ・スープ』のチャン・ヤン監督のコメディ・ドラマ。微笑ましくも深みのあるドラマに仕上がっている。
review

 題材は死んでしまった男を運ぶというなんとも物騒なものだが、チャン・ヤンはその題材を平和で微笑ましい物語に変えてしまう。これはこの監督の特徴であり技だと思う。牧歌的というわけではないのだけれど、穏やかでのどかで優しい。『こころの湯』のようないかにもな題材だけでなく、この作品のような物騒な題材でも同じように優しい作品を取れるというのはすごいことだ。
  この作品に限って言うと、それを実現しているのは“旅”である。ひとところにとどまらないことで、面倒くさい人間関係やしがらみから逃れることができ、死人という物体はひとつのエピソードになり、主人公のチャンのキャラクターづけをする小道具に過ぎなくなる。そこがこの映画の味噌なのだと思う。つまりこの作品はロードムービーであることで成功しているのだ。
  うだつのあがらない中年の男が、唯一の友人も失ってしまい、彼の望みをかなえるために旅に出る。途中で泥棒にも会い、一文無しにもなるけれど、暖かい人々との出会いもあり、紆余曲折を経ながらも前へ進んでゆく。

 ロードムービーというのは一般的に、目的地に向かう旅の旅程で別の何かを発見するという展開になることが多い。それはロードムービーというのが結末に向かうことに意味があるのではなく、その過程に意味がある物語だからだ。
  この作品もそのような展開をとる。目的は友人の遺体を故郷へと運ぶことだが、作品の核心は彼の旅自体にある。彼がさまざまな人々と出会うことで自分自身が変わっていくのである。
  もちろんただ旅をすれば、そのような出会いと発見が生まれるわけではない。この作品で言えばこの主人公のチャオの正直さがそれを呼ぶ。彼は死人を運んでいるということがばれないように口をつぐむこともあるし、ひもじくて葬式にもぐりこむこともある。しかし聞かれれば正直に答え、人をだまそうとはしない。その正直さが人の善意を呼び寄せ、彼の旅は何とか進んでいくのだ。彼の正直さはおそらく彼のそれまでの人生で幸福と同時に不運も読んでいたのだろう。彼はそれを背負ったまま旅に出て、その正直さで新たな人生を呼び寄せた。それは決して劇的な変化ではないけれど、彼の旅が徒歩でゆっくりと進むように、彼の人生もゆっくりと変化していくのだ。
  ロードムービーにおける旅とは常に人生の比喩である。このゆっくりとした旅は彼のゆっくりとした人生、あるいは停滞した人生を表象しているのだろう。

 ロードムービーというのはやはりいい。物語が進めば場所が変わり、風景が変わり、人が変わる。旅人はどこでもよそ者であり、出会うのは常に未知のものである。未知のものとの出会いは新たな発見、新たな展開、新たな関係を生む。
  ロードムービーでは何も劇的なことが起きなくても、小さな驚きの連続がドラマを生み、それが面白い。小さなドラマの積み重ねが主人公の内面にひとつの流れを生み、それが物語となるのだ。そしてそこに彼の人生が見える。その控えめな感じがなんともいいのだ。 この作品にもそんなロードムービーのよさがきっちりと当てはまる。中国は広く、その文化のバリエーションは豊富だ。だから、中国を舞台にしたロードムービーはもっとあってもいい。そんな思いを強くさせる作品だった。

Database参照
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国別・年順: 香港

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