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ベストセラー

★★★★-

2008/2/29
1959年,日本,107分

監督
市川崑
原作
谷崎潤一郎
脚本
市川崑
撮影
宮川一夫
音楽
芥川也寸志
出演
京マチ子
叶順子
仲代達矢
中村鴈治郎
北林谷栄
潮万太郎
山茶花究
preview
 大学病院のインターンである木村は知人の古美術鑑定士剣持にカンフル剤を出している。剣持の若く美しい妻郁子はそのことを知るが夫には秘密にしておいてくれと告げる。さらに娘で木村の婚約者敏子もやってくる。その夜、剣持の家を訪ねた木村はぎこちない雰囲気に居心地の悪さを感じるが、郁子が風呂場で気を失ってしまう。
  谷崎潤一郎の問題作『鍵』を市川崑が映画化。大映が力を入れた作品で、撮影は宮川一夫、音楽は芥川也寸志、役者も一流どころがそろって見所はたくさん。
review

 谷崎の変態的な物語に、市川崑の演出、見所は色々あるけれど、私が何よりも気になったのはメーキャップである。なかなか映画でメーキャップが気になるということはないのだけれど、この作品は特段にメーキャップが独特で、しかもそれが非常に効果的である。映画の始まりは、中村鴈治郎演じる剣持と仲代達矢演じる木村という男同士の会話のシーンなので、特別変わったことはないのだが、京マチ子が登場すると、早くもその眉毛が強烈な印象を与える。もともとの眉毛を(おそらく)すべて剃って極端に細くつりあがるように描かれた眉毛、その印象は強烈で、しかしそれが決して異様ではなく、京マチ子の美しさを強調している。
  それに対して、娘の敏子を演じる叶順子のほうは、太く短い眉毛が強調され、ぼってりした唇に真っ赤な唇が塗られて、どうみても化粧慣れしていない田舎の娘にしか見えない。この対照はあからさまにふたりを対比しているのだが、その叶順子は顔全体を薄く白くメークしている場面もあり、その不健康そうな顔色は逆に魅力的でもある。
  そして、その後は男たちのメークも極端になっていく。仲代達矢も中村鴈治郎も顔の一部を白塗りされ、妙な顔色を作り上げられる。これが見事なライティングによって浮き上がり、下手な恐怖映画より恐ろしいものになっている。
  このメークの演出はいったい誰がやったのだろう。もちろん最終的にそれを採用したのは監督の市川崑ということなのだろうが、撮影は名手宮川一夫である。色彩にことのほか神経を使う彼が、あえてそのようなメイクによって映像を効果的なものにしようと考えたことは想像に難くない。肝心の「メイク」としてクレジットされている野村吉毅はこの作品以外に名前が出てくることはなくまったくの謎の人物。これだけ独創的だから他に仕事の仕様がなかったのか、あるいは映画以外の世界では有名な人物なのか。それはわからないが、とにかくこの作品はすごい。

 さて、もうひとつ目を引いたのは京マチ子の存在だ。京マチ子といえば押しも押されぬ大女優、日本人離れしたグラマラスな肉体で日本版“ヴァンプ”女優として有名だが、1924年生まれだから、この作品の時点で35歳、まさに女ざかりでありこの郁子というキャラクターにこれ以上ぴったりな女優はいなかっただろうと思う。仕草の一つ一つが非常に丁寧で、指先にまで色っぽさを感じさせる演技はさすがである。これにエロじじいを演じさせたら日本一の中村鴈治郎の組み合わせだから変態の大御所谷崎潤一郎も溜飲を下げただろう。
  市川崑はキャスティングで映画の8割が決まると言っている。その意味ではこの作品は本当に巣晴らしいキャスティングでしかも撮影は宮川一夫、監督としてもこれ以上はないという環境で作ることができ、仕上がりも最高というところだっただろう。さすがは映画界の大立て者永田雅一が全力を傾けて作った作品だというだけはある。

 これは市川崑監督の中期の代表作でもあるし、大映という映画会社の代表作でもある。松竹や東宝と違い“大人”向けの娯楽作品を数多く作った大映にとって艶めかしく妖しいこのような作品こそらしい作品だったと思う。日本映画の黄金時代の一翼を担った大映の底力を感じさせる作品だ。
  もちろん原作を大きく変えた物語も秀逸で、展開にも目を離せないが、なんとも後味の悪い終わり方からも映画は物語だけではないというメッセージが伝わってくるようなので、あえて物語に触れることはしない。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: 日本50年代以前

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