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ベストセラー

犬神家の一族(1976)

★★★.5-

2008/4/3
1976年,日本,146分

監督
市川崑
原作
横溝正史
脚本
長田紀生
浅田英一
岩下輝幸
日高真也
市川崑
撮影
長谷川清
音楽
大野雄二
出演
石坂浩二
高峰三枝子
三条美紀
草笛光子
あおい輝彦
地位武男
島田陽子
坂口良子
小沢栄太郎
加藤武
大滝秀治
岸田今日子
preview
 信州・那須の犬神財閥の当主佐兵衛が死に、遺言は9人の遺族が集まるまでは公表されないとされた。死から数か月がたち、金田一耕助が犬神家の顧問弁護士事務所の男に呼ばれるが、那須についてすぐその男が死んでしまう。その直後、復員してきた最後の遺族佐清が復員し、遺言が読まれることになったが、その佐清は顔にむごい傷を負い、不気味なマスクをして現れたのだ…
  市川崑監督の人気シリーズとなる石坂浩二主演の金田一耕助ものの第1作。2006年には自身でリメイクした。
review

 恐ろしい顔の老人犬神佐兵衛翁が死に、子供達は口々に遺産相続のことを口にする。弁護士の古舘は相続人の9人全員がそろうまで遺言状は開封しないと告げる。それから7ヶ月、古館の部下若林が東京から私立探偵の金田一耕助を呼ぶが、ついたその日に若林は変死し、犬神家の関係者である野々宮珠世が殺されそうになる。
  横溝正史の金田一耕助シリーズといえば推理小説の名作で、この作品以前にすでに映画化もされている。しかし、金田一耕助の映画といえばやはりこの『犬神家の一族』に始まる市川崑監督、石坂浩二主演の4作品の印象が非常に強い。それは、この市川崑監督による金田一耕助シリーズが横溝正史のおどろおどろしい世界を見事に映像化しているからだ。
  市川崑は60年代に日本を代表する監督のひとりとなり、モダニズムの旗手として日本映画が斜陽を迎えた70年代以降もATGに参加するなどして旺盛に映画を作ってきた。その彼だからこそこの金田一耕助を作れたのだ。ものすごいスピードで切り替わるカット割り、大胆なメイク、暗い中に浮かび上がるようなライティング、それらのモダニズム手法が横溝正史の物語世界と見事に合わさり、独特の世界観を作り出しているのだ。
  それは本編の映像だけにとどまらず、誰も見たことが無いようなタイトルクレジットや使われる音楽も大胆にして魅力的なものだ。今見ても古臭く感じられないということは、30年前にはかなり斬新なものだったということだ。

 そして、役者達もいい。長女の松子を演じた高峰三枝子を筆頭に犬神家の面々を演じた役者達は往々に無表情で、それが不気味さを演出し、謎を謎として投げかける。そしてその無表情が崩れるとき、事件は大きく展開する。野々宮珠世を演じた島田陽子も同様に無表情である。彼女が犯人かもしれないという疑念をかすかに抱かせるほどの不気味さも備え、謎をさらに深める。
  リメイクの2006年版と比べると、やはりオリジナル版のほうがいいような気がする。特に2006年版で珠世を演じた松嶋菜々子は怪しげな部分がまったくなく、事件に関わっているという感じがしなかった。犬神家の姉妹を演じた富司純子、松坂慶子、萬田久子もちょっと演技過剰という感じで不気味さがあまり伝わらなかったように思える。ただ、ホテルの女中を演じた深田恭子だけは坂口良子よりも存在感があったように思う。

 物語のほうも2006年版より、この1976年版のほうがなんだかしっくり来る。やはりそれは野々宮珠世が犯人かもしれないという可能性を残している点が大きいと思うのだが、その珠世が決して出すぎず、登場人物の多くが同じくらいの重みで描かれている点がいいのではないか。金田一耕助もでしゃばりすぎず、すべてが淡々としている。
  推理ものの映画にはこのような淡々とした部分が必要なのだ。観客はただそこで展開される事件を見るのではなく、その淡々とした物語が生む「間」に自分で推理をすることが出来る。いろいろな証拠を頭の中で検証し、誰が犯人かあたりをつける。新しい事件がおきるたびにその推理は覆され、また新たな推理を展開する。それが推理物の楽しみ方ではないか。
  2006年版ではエンターテインメントせいが強くなったために、そのように観客が自分で推理する間がなくなってしまっていたように感じた。そのようにして観客を圧倒し巻き込んで考えさせないというのは娯楽映画の世界的な流れではあるのだが、この映画はそのような頭を使わなくていい映画ではないはずだ。
  だから、両方見ようという人はまずこの1976年版を見て推理する楽しみを味わい、それから2006年版を目くるめくエンターテインメントとしてみればいい。市川崑がもしそこまで考えて1976年版をすでに見た人たちに向けてリメイク版を作ったのだとしたら、市川崑というのは本当に天才的な監督だったということになるし、私は本当にそうなんじゃないかとなんとなく思う。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: 日本60~80年代

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