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鎮花祭

★★★--

2008/6/16
1960年,日本,87分

監督
瑞穂春海
原作
丹羽文雄
脚本
松浦健郎
撮影
中川芳久
音楽
池野成
出演
若尾文子
根上淳
吉川満子
山内敬子
川崎敬三
preview
 BGの朝比奈公仁子はテレビ・ディレクター古田の目に留まりCMガールになることになり、古田のアパートの部屋で演技の個人教授を受けることに。公仁子の兄で父の工場を継いだ正方は公仁子の友人で家に下宿している陽子を嫁にもらうことにするが、陽子は新婚初夜から夫を拒み、正方は不満を募らせる…
  若尾文子が小悪魔的なヒロインを演じた大映らしいどろどろとしたドラマ。
review

 日本映画の黄金期といわれる昭和30年代、日本には、松竹、東宝、日活、大映、新東宝という5つの映画会社があった。大まかに言えば、松竹は小津に代表されるホームドラマ、東宝は社長シリーズなどのサラリーマン喜劇、日活は裕次郎などのスター・アクションと色分けがされていたわけていた。新東宝は昭和36年に東宝に吸収されるが、昭和30年代には際物的な作品が多くなっていた。
  これに対して大映はサスペンスやメロドラマを得意とし、大手3社よりも“大人な”作品を多く作っていた。サスペンスでもドラマでもどろどろとした男女関係を描くという作品の印象が強い。
  この作品はまさにそんな大映ドラマのひとつである。主人公の若尾文子演じる公仁子はCMガールになることが決まるとディレクターの古田に取り入ろうとする。公仁子は古田と結婚しようと考えていたわけだから必ずしもこれが“女の武器”を使って成り上がろうという意図とはいえないわけだが、それを利用したことは間違いない。相手の古田のほうも結婚していることは隠しながら、立場を利用して公仁子を誘惑する。こんな話は今でも昼ドラなんかに使われるが、今も昔も人々の気を引いたのだろう。
  また、公仁子の友達の陽子が公仁子の兄の正方と結婚するのもよくある話で、松竹ならその夫婦は円満にいくのだが、大映だとその夫婦はだいたい問題を抱えることになる。この作品では陽子が夫とのセックスを拒むことで夫が暴力的になると同時に、外に女を作るというさもありなんという展開、さらにその外の女というのが立場を利用してなりあがろうとするわけだから話はややこしくなる。
  この複雑に絡み合った男女の欲望と策略がドラマを面白くしていく。そしてこの作品にはさらに正方の戦争経験というのが絡んでくる。昭和30年代のドラマには戦争が影を落とすことがまだまだ多いが、それは見る人のほとんどが戦争を経験しているからだ。戦争経験者に対する見方も今とは異なって、この作品で正方は戦争によって恐ろしい人間に変わってしまった男として描かれている。そこは今見るとちょっと違和感を感じるけれど、今はそれだけ戦争が遠くなったということ、ほとんどの人が戦争を経験している社会というものをこのような作品から想像することも出来る。

 それらのすべてをひっくるめて、この作品は昭和30年代の大映らしい作品といえる。ヒロインを演じる若尾文子はデビュー時に“低嶺の花”と言われたように美人ではなく親しみやすく、リアリティのある女性であり、そのキャラクターがこの作品でも生かされている。決して“魔性の女”というわけではないが、非常に現代的でさばけている。それに対して美人という設定の陽子は古風で不器用だ。この女性の生き方の変化というのもドラマの重要な要素になる。
  特に素晴らしい作品というわけではなく、監督の瑞穂春海も名監督というわけではない。若尾文子は数え切れないほどの作品に出ているから、特にこの作品がということもない。しかしさすがは日本映画の黄金期といわれる昭和30年代の作品だけあって、このまま埋もれてしまうにはもったいないような作品だ。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: 日本60~80年代

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