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TIFF2008

パルケ・ヴィア

★★★.5-

2008/11/3
Parque Via
2008年,メキシコ,86分

監督
エンリケ・リベロ
脚本
エンリケ・リベロ
撮影
アルナウ・バルス・コロメル
出演
ノルベルト・コリア
ナンシー・オロスコ
テザリア・ウェルタ
preview
 メキシコシティの屋敷で暮らすべトはその屋敷の持ち主から家が売れるまでの管理を任されているが、その家は売れないまま十年もの時が過ぎていた。ベトは見学者が来るたびに家や庭を掃除し続けるが、いつまでも家は売れない。
  空き家で暮らす孤独な初老の男を描いた静謐なドラマ。監督のエンリケ・リベロはこれが長編デビュー作となる。
review

 ひとり孤独に大きな家に暮らし、連絡を取る相手といえば雇い主の女主人と馴染みの売春婦のルーペだけ。ほとんどものもしゃべらず、ルーティン化された日常をただただやり過ごす。しかしベトはその生活に満足していた。誰と会う予定がない日でも、アイロンをかけた白いシャツと黒いズボンというきっちりとした服装をして、家の管理をしっかりとしてすごし、夜は部屋着に着替えテレビを見て寝る。
  はたから見ると退屈なだけのその生活に彼が固執していることは、見学者が現れ、不動産業者と話し合うたびに、窓からそれを見つめるベトの拳がぐっと握られることによって表現される。この家から追い出されるという苦難が巡って来ることがないよう、ベトは何かに強く祈っているのだろう。彼の信仰心の強さは寝室に飾られたふたつの宗教画によって明らかにされる。神は彼の願いを聞き届け、長年にわたって彼をその屋敷にとどまらせた。
  しかし、ついに買い手が現れる。そのことについてルーペにも何も語らず、表情も無表情のままのベトの心情はなかなか読み取ることができない。彼は何を思うのだろうか。自分の無力さへの虚しさか、神に裏切られた悔しさか。

 最後の最後に「えっ?」という展開があるが、全体的には非常に静かで淡々として、しかも決して理解しにくくはない作品だ。しかもこのベトの気持ちがまったく読めないことによって深みを生んでもいる。心情が伝わってこないだけにさまざまな解釈が成り立ちうるし、そこからさまざまな物語が生まれる余地がある。しかも、ほとんど事件らしい事件が起きなずに淡々と過ぎる時間の中では、色々と類推を働かせる時間がたっぷりとあるのだ。
  私はこのベトという人物は自分と外部との境界をはっきりさせておきたいのだと思った。だからこの豪邸という城に守れらる生活に安住し、ルーペというメディアを通してしか外部と接触しない。TV番組も熱心に見ているようではないし、受け取る新聞も古いものなのだ。彼にとって家がなくなることとは途方もない外部に放り出されることであり、それはどうしても受け入れがたいことなのだ。だから彼は何とかして家にとどまり続けるか、その家に変わる新たな城を見つけなければならない。となると、彼が選びうる選択肢は限られており、最後の展開にも納得がいく。

 観る者の心を揺さぶって考えることを強いる作品よりも、このように考えるための要素が徐々にしみ入って、いつの間にかボーっと思考の波間に漂っているような作品のほうが私は好きだ。
  メキシコ映画というとどこか激しさを連想させるが、文学から映画へと続くラテンアメリカの伝統はさまざまな要素をパズルのように組み合わせ、そこから魔術のようにリアリティを出現させる、そのようなものだと私は思う。この作品は魔術的というわけではないが、思いがけない展開の中にリアリティが存在するという点でどこか共通するところがある。
  なんだか妙に納得の映画だ。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: メキシコ

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