登場人物がみな情緒不安定、見ているほうが不安になる“サイコ”映画

Margot at the Wedding
2007年,アメリカ,93分
監督:ノア・バームバック
脚本:ノア・バームバック
撮影:ハリス・サヴィデス
出演:ニコール・キッドマン、ジェニファー・ジェイソン・リー、ゼイン・バイス、ジャック・ブラック、ジョン・タトゥーロ

 作家のマーゴットは長く不仲だった妹のポーリンの結婚式のために息子のクロードと生家を訪れる。彼女は定職を持たない妹の婚約者に不満を述べ、隣家との間にいさかいを起こし、集まった人々は徐々に不満を募らせてゆく…
『イカとクジラ』のノア・バームバックが監督したファミリー・ドラマ。

 不仲だった妹の結婚式に出席するために生家を訪れるという導入、さらにジャック・ブラックが登場してアットホームなヒューマンドラマかと思うが、主演がニコール・キッドマンなだけにそうは行かない。ニコール・キッドマン演じるマーゴットはジャック・ブラック演じる妹の婚約者マルコムをろくでもないやつと決めてかかる。

 このマーゴットは柔らかな物腰ながら久しぶりに会った妹を支配しようとし、すべてが自分の思い通りに運ぶようにしなければ気がすまない。それはわがままというよりは独善的、自分の意見だけを信じ、周囲のことはまったく気にも留めない。そして自分の意見を押し付け、周囲がそれに同意するのが当然と思っている。

 こういういやな女を演じさせたらニコール・キッドマンはうまい。さすがに年とともに小じわは目立つようになったが、冷たい印象は健在、氷のような美人とはまさにニコール・キッドマンのためにある言葉だと思ってしまう。

 しかもこのマーゴットは非常に不安定な女だ。自信満々に振舞いながらも実は常に不安に襲われていて、人のあら探しばかりし、自分の不安感は薬に頼らなければてなづけることができない。

 そして、彼女に振り回せれる周囲の人々も不安定な人ばかり。これではまったくかみ合わず、はっきりとした物語は生まれないのは当たり前のこと。もちろんそれが狙いなのだろうけれど、こういう散漫な物語というのはどうも苦手だ。

 それでもそんな母親を慕い、母親の元から離れようとしない息子のクロードの存在は非常に印象的だ。マーゴットはもちろんクロードも自分の思うままになるように仕向け、ある程度それに成功しているわけだけれど、さすがに息子も母親の不安定さやいやらしさに気づいてもいる。母親への愛情と世間の評価との間の齟齬に戸惑う彼の心理はこの映画にわずかな実感を与えている。

 最後の最後までこのマーゴットの行動は予想がつかない。見るものはその予想のつかなさに不安になり、映画の中に何か確かなものがないかと探してみるのだが、唯一確かなものであったはずの大木も切り倒され、探る手は虚空で空を切るばかりだ。そんなどこを向いても見通しの聞かない世界の中で、同じく途方にくれるジャック・ブラックがわずかながら唯一、共感を覚えうる存在だった。彼が象徴する男の矮小さ、だらしなさ、見栄っ張りなところにはうなずける。

 もしかしたら女性はポーリンにそれを見出すのかもしれないが、とにもかくにも不安を掻き立てる映画だ。

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