アレックス・コックス&ロジャー・コーマン、すごい低予算映画

Searchers 2.0
2007年,アメリカ,96分
監督:アレックス・コックス
脚本:アレックス・コックス
撮影:スティーヴン・ファイアーバーグ
音楽:プレイ・フォー・レイン
出演:デル・ザモラ、エド・パンシューロ、ジャクリン・ジョネット、サイ・リチャードソン、ロジャー・コーマン

 メキシコ系の中年男メル・トレスは聞き覚えのある西部劇のテーマ曲に導かれてフレッド・フレッチャーの家を訪れる。同じ映画に子役として出演していたことを知った彼らはそのとき脚本家に虐待された記憶を共有していた。そしてその脚本家フリッツ・フロビシャーがモニュメント・バレーで講演を行うことを知り、メルの娘デライラに車を借りて出かけようとするが…
 鬼才アレックス・コックスが西部劇『捜索者』をモチーフに撮ったシニカルなコメディ。製作総指揮は低予算映画の巨匠ロジャー・コーマン。

 B級西部劇に出演したことのある元俳優ふたりが子役のころに虐待を受けた脚本家に仕返しをしに行く。足がないためメキシコ系のメルの娘デライラに嘘をついて車を出させる。西部劇オタクのふたりは道中で話すことも西部劇の会話ばかり、西部劇に興味のないデライラはただあきれるばかり。

 しかし、ふたりがそのデライラに西部劇の魅力を説明しようと復讐劇の意味について語り出すと、古典劇における復讐劇は西部劇とのそれとは違う(古典劇では復讐を果たした主人公はその報いを受ける)と一蹴されてしまう。これは復讐が正義であるというハリウッド映画の欺瞞を信じきっているコドモな大人を揶揄した表現なわけだが、基本的にこのスタンスが作品を貫いている。

 西部劇の復讐劇というのは復讐を果たし、主人公がヒロインと結ばれて大団円を迎える。デライラはそれを批判するが、おじさんふたりはそれを肯定する。そして主人公が死んでしまうような作品はダメで、そのために自分が主役を張るはずだったはずのリメイク企画がぽしゃったと見当違いの批判を述べたりする。

 このなんとも間の抜けたやり取りのおかしさがとてもいい。よっぽどの映画マニアでないと真偽のほどがわからないような話題もたくさん出てくるのだが、アメリカにはそんなマニアがたくさんいる。マニアだけに語れる映画と軍の関係(大統領にベトナム戦争の停戦を求めたというサム・ペキンパーのエピソードなども登場)。

 そしてその間の抜けた会話の中にアメリカ社会に対する皮肉をさらりと織り込んでいく。たとえば9.11を7.11と言い間違えたりするというのは政治について語りながらも、実際は政治意識が低いというアメリカ国民の多くを揶揄しているわけだし、フレッドがバカでかい銃を持ち歩いているところなんてのも強烈だ。

 この主人公ふたりを演じる役者がまったくの無名、映画自体が非常に低予算でウェブサイトで出資者を募って製作された。そして、その製作総指揮にクレジットされているのがロジャー・コーマンというのがすごい。ロジャー・コーマンといえばB級西部劇の監督として名を上げ、その後はB級ホラーに手を出し、監督業から引退したあともB級映画のプロデュースをやり続けてきたB級映画の巨星。プロデュース作品は約400というから驚く。そのロジャー・コーマンとアレックス・コックスが組んだ西部劇のパロディ/オマージュ、それでピンと来る人には文句なしに面白い作品だろう。

 インディペンデントはまだまだこういう作品を取れる。アレックス・コックスもこのところ泣かず飛ばずだったけれど、これで復活のきっかけをつかむか?

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