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ウェディング・ベルを鳴らせ

奇想天外でハイテンションに少年の初恋を描く!クストリッツァ節健在
★★★--

2010/4/12
Zavet
2007年,セルビア=フランス,127分

監督
エミール・クストリッツァ
脚本
エミール・クストリッツァ
撮影
ミロラド・グルシーカ
音楽
ストリボール・クストリッツァ
出演
ウロシャ・ミロヴァノヴィッチ
マリヤ・ペトロニイェヴィッチ
リリャナ・ブラゴイェヴィッチ
ストリボール・クストリッツァ
ミキ・マノイロヴィッチ
アレクサンダル・ベルチェク
preview
 ゼルビアの農村で祖父と暮らすツァーネは生徒一人の学校が廃校に。ツァーネの将来を案じた祖父は街に牛を売りに行き、イコンと好きなお土産を買って花嫁を見つけて帰ってくるようツァーネと約束をする。初めて街を訪れたツァーネは戸惑いながらもヤスナという少女に出会う。
 エミール・クストリッツァが少年の恋と周囲のドタバタを描いたコメディ。とにかくテンションが高い。
review

 小さな農村に暮らす少年ツァーネが初めて都会に出てゆくという物語で、そのツァーネが都会でいろいろな騒動に巻き込まれるコメディなわけだが、とにかくずっとハイテンションに展開してゆく。エミール・クストリッツァの作品が理解し難いのはいつものことだが、今回は題材としてはわかりやすそうなものなのに、はっきりって意味不明なものが多すぎる。

 ツァーネのお祖父さんは村の発明家という感じでいろいろな装置を作ったり落とし穴を作ったりする一方で、納屋のようなところに聖堂を作ってもいる。だからツァーネにイコンを買ってくるように頼んだわけだが、同時にこのお祖父さんは村の先生であるボサに求婚され続けていて、いよいよ結婚することに決めたらしい。

 ツァーネのほうは街でヤスナという少女に一目惚れ、彼女をお嫁さんにして村に連れ帰ることにするが、ヤスネの母親は地元のマフィアらしき男に借金を負っている。そして、おじいさんに訪ねるようにいわれた靴職人の孫というのがそのマフィアの仲間だか敵だかでツァーネは否応なくそのごたごたに巻き込まれていくという…

 それだけならまあいいのだが、空飛ぶ男やボサに求婚し続ける大臣や、なんやらかんやらよくわからない人や物がたくさん登場しぐっちゃぐっちゃな展開になっていく。ぐっちゃぐっちゃはクストリッツァの得意技といえば得意技なのでそういうもんなのだなと思って見るのだが、やはりそのごっちゃごっちゃに何の意味があるのか結局わからない。

 それでも面白いと思ってしまうのが不思議なところだが、ようはこれだけのハイテンションを2時間続けて、わけはわからないにしろ次から次にいろいろなことが起きるってのはすごいんだろうな、と思うわけだ。

 クストリッツァはユーゴスラビア時代から映画を取り、『アンダーグラウンド』以降、たびたびその政治を皮肉の対象としてきた。この作品もすぐに銃撃戦になったり、マフィアが跋扈して都市開発を行おうとしていたり、セルビアの政治情勢に対して何らかの含みがありそうなのだけれど、実際に何をいいたいのかはよくわからないし、政治的な映画にしようという意図は感じられない。むしろ、田舎から都会に初めて出てきた少年が経験する都会というものの物々しさというほうがピタリと来る。ただ都会の日常の物々しさと政治とは密接な関係にあり、そこに何らかの皮肉が潜んでいるのだろう。

 などと考えてみたが、結局のところそれがこの映画の面白さなわけではない。ただただ圧倒的なハイテンションと音楽、そのグルーブにのることができればこの映画は楽しめる。しかし、描かれているものの意味を考えてしまったり、何らかのメッセージを読み取ろうとしてしまうと、ただただ途方にくれる。

 エミール・クストリッツァはミュージシャンでもあるわけだが、彼の映画は多分に音楽的である。音楽にも意味はあるが、それは理解するものではなく「感じる」ものだ。彼の映画は音楽のように感じるものであって理解するものではない。だから、感性が合わない人にはまったくぴんと来ない。それがエミール・クストリッツァなのだ。

 私はこのクストリッツァのカオス的な感性がすごく好きだ。だからこの映画もかなり面白かった。でも万人に勧められるものでもないこともよくわかった。

 蛇足だが、この作品は『ウェディング・ベルを鳴らせ』なんてハリウッドのラブ・コメかと思うようなタイトルをつけられているが、それにつられて見に来た人はきっとつまらない想いをして帰ったことだろう。まあマーケティング戦略なのだろうけれど、この作品はそんな邦題で釣るような作品ではないし、そういうマーケティング方法は作品にも観客にも失礼ではないかなどと思った。いい映画なのに、なんだかもやもやしてしまった。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: セルビア・モンテネグロ

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