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犯罪者と社会と心の瑕と心の闇と。痛みが共感に変わる…
★★★--

2010/6/2
2010年,日本,84分

監督
卜部敦史
脚本
堀井威久麿
撮影
堀井威久麿
音楽
Yuko Sonoda
出演
金倉浩裕
今村祈履
森崎元太
染井ひでき
英昭彦
preview
 元性犯罪者を監視する法律scope法が制定された近未来、集団強姦罪で6年間服役した別所篤夫は就職もできず、父親にも拒絶されてしまう。篤夫は高木という名を名乗り離党の工場で働き始める。そして、その島の娘凪は篤夫に心魅かれるが、篤夫は心を閉ざし続ける…
  卜部淳史初の長編劇場公開作品。インディーズ作品ながらロングラン公開され、全国順次公開(予定)という話題作。
review
scope
(C)2010 「scope」 制作委員会 ALL Rights Reserved

 日本でも制定の動きがある「性犯罪者監視法」、その法律が実際に施行された社会でその監視の対象となった元受刑者がどのような生活を送ることになるのかを描いた。

 主人公の篤史は集団強姦で捕まり、6年間を刑務所で過ごして出所する。しかし、予想通り世間の風は冷たく、就職することもできず、再婚するという父親からは金だけ渡されて厄介払いされる。篤史は逃げるように離島へわたり、名前を変えて工場に勤め始める。そこにもscope法に従って篤史の情報は入っているのだが、工場長はそれをあえて無視する。そして、同じ工場で働く凪は篤史に心魅かれ、凪の婚約者である善三は篤史を憎むようになる。

 こんな物語で、主要な登場人物がみな“瑕”を抱えているというのがひとつのテーマだ。篤史はscope法の監視対象者の証である右手の刺青を隠すために右手にいつも脱脂綿を張っている。凪は聾唖、善三は右足を引きずっている。工場長にも何か後ろ暗い過去があるようだ。 

 この映画が描こうとしていることはすごくよくわかる。まずは、犯罪の加害者が刑期を終えても社会という牢獄に閉じ込められることの是非。ここでは性犯罪者に限られているが、現実的に言って今の日本で“前科者”が差別されているのは明らかだ。したがってここで描かれている問題は「性犯罪者監視法」がもし制定されたらという過程の話ではなく、いままさに現実で起きていることを描いてもいるのである。

 そんな中で加害者である篤史の気持ちもよくわかる。そしてその心の闇に凪が魅かれるのもよくわかる。そしてその篤史にを憎む善三の気持ちもよくわかる。さらにはその善三の心の底に篤史と同じように闇があるのもよくわかる。そしてそれと対比される形で提示される工場長のエピソードの持つ意味もよくわかる。

 そのようにそれぞれの気持ちがよくわかるからこそ、どんな人が見ても作品の世界に入り込むことができるし、何らかの引っ掛かりがあるわけだ。でも、なんだかわかり安すぎるという気もする。それぞれの物語はよくわかる。しかし、登場人物が次にどのような行動を取るかということはほとんど予想がついてしまう。別にそれではいけないというわけではないが、「人間」を描いた映画だけに、人間ってのはこんなに単純なものだろうか? という疑問がこの作品を見ている間ずっと頭の片隅にあった。

 それはこの映画のドラマトゥルギーがすべてわかりやすさのほうに寄ってしまっているからではないか? わかりやすさを重視するがためにすべてを単純しすぎてはいないだろうか? 息子が性犯罪者だという理由で父親はあんなに簡単に息子を捨てるだろうか? scope法という法律の対象者だというだけで本当にみんながみんな篤史のことを蔑み、追い出そうとするだろうか? 彼を理解するのは本当に彼と同じような苦しみを抱える者たちだけなのだろうか?

 そのような疑問が次々と沸いてくる。インディーズ映画にもかかわらずきっちりと作られ、役者も精一杯の演技をしているこの作品は面白い。でも私はあまりリアリティを感じられなかった。

 物事を単純化することは、問題を解決する道筋の第一歩としては非常に有効だ。しかし、観る者が自分の身にひきつけて、リアリティを感じることができるためには、もっと複雑な現実を複雑なまま描くという努力が必要なのではないだろうか。一歩目を踏み出した後はすぐに二歩目を踏み出さなければ人はそこで留まってしまう。留まることなく前進するためには、早く次の一歩の行く先を示さなければならないのではないだろうか。

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(C)2010 「scope」 制作委員会 ALL Rights Reserved
Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: 日本90年代以降

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