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サラの鍵

60年後、悲劇は克服されるか?フランスにもホロコーストの歴史。
★★★--

2010/10/20
Elle s'Appelait Sarah
2010年,フランス,111分

監督
ジル・バケ・ブレネール
原作
タチアナ・ド・ロネ
脚本
ジル・バケ・ブレネール
セルジュ・ジョンクール
撮影
パスカル・リダオ
音楽
マックス・リヒター
出演
クリスティン・スコット・トーマス
メリュシーヌ・マイヤンス
ニエル・アレストラップ
エイダン・クイン
preview
 1944年、パリ。ユダヤ人のサラは両親とともに警察に連行される。サラは弟をとっさに納戸に隠すが、屋内競技場に連れてゆかれ、劣悪な環境で数日を過ごすことに。2009年、同じくパリ。雑誌記者のジュリアは夫の家族が長く住んできたアパートに引っ越すことにするが、1944年の事件を調べる内にある疑惑が浮かんでくる…
  世界的ベストセラーとなった同名小説の映画化。ホロコーストについて語り尽くされることは決してないと認識させられる力作。
review

 1942年にパリで実際に起きたユダヤ人一斉検挙。検挙とはいってももちろん単にナチスの方針にしたがってフランスの警察がユダヤ人を捕らえただけで、そのユダヤ人たちをヴェルヴィヴと呼ばれる室内競技場に数日間閉じ込め、その後各地の収容所に送ったという事件だ。

 まずこの事件について私は知らなかった。ナチスドイツによるユダヤ人の迫害についてはドイツ、ポーランドでの話はよく聞くし、映画や文学やルポルタージュになっているけれど、フランスを舞台にしたものは少ない。この事件についてもどこかで聞いたことがあるはずだが、記憶にない。本当にナチスドイツによるユダヤ人の迫害については語っても語っても語りつくせない。そして新たな物語を眼にするたびにその悲惨さに目を見張る。

 これは実際の事件を基にはしているがあくまでも小説だ。だが、このように60年以上のときを経てもまだその傷がいえていない人はたくさんいるに違いない。それはホロコーストのみならず、戦争にまつわるあらゆることがそうなのである。この物語は、その傷が当人だけのものではなく、戦争を知らないわれわれにも及び、われわれもまたその事実に繰り返し直面しなければならないということを示唆している。

 それは非常に重い事実だ。私たちは60年以上前の悲劇から目をそむけてはならないのだ。

 しかし、この映画はそのような思い事実を決して重過ぎない物語としてわれわれに提示する。ここに描かれるのは悲劇だ。しかし、この映画には悪人は登場しない。悪人はいるが、その悪人には顔がないのだ。特定の人物として登場する人々は善人か、せいぜい悪事を見てみぬフリをした小心者だ。

 だからここに登場する人々はみな悲劇を乗り越えることができる。自分と家族の歴史を罪の歴史として構築しなくていいからだ。それは、この物語が問題にしているのは、そのような歴史を背負った現代のわれわれの物語だからだ。私たちは真実を知りたい。しかしそれは真実を知って安心したいということでもある。自分が罪を背負っているわけではないということを確認したいのだ。

 しかし、私はそこに物足りなさを感じた。これがドキュメンタリーだとしたらそのほうが良かったかもしれないが、これはあくまでもフィクションなのだ。ならば中には先祖の罪を背負った人物が出てきても良かったのではないか。ナチスの言いなりになってユダヤ人を検挙したフランス人の警察官の子孫が登場したとしたら…

 ナチスによるホロコーストに加担した人々というのは歯車に過ぎなかったということはよく言われる。しかし歯車だったとしても悪事に加担したことは間違いがない。自分自身ではなく祖父や曽祖父がそんな悪事に加担していた場合、どのようにその罪を償えばいいのか、被害者の子孫はそれにどう対処すればいいのか、この映画を見ながら感じたのはそのような問いが欠如しているということだ。

 本当に語っても語っても語りつくせない。

Database参照
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監督順: 
国別・年順: フランス

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