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そのカエル、最凶につき

オーストラリアを席巻するカエルは人間のおかしさをあぶり出す。
★★★--

2010/10/29
Cane Toads: The Conquest
2010年,オーストラリア,83分

監督
マーク・ルイス
脚本
マーク・ルイス
出演
オオヒキガエル
preview
 1930年代、オーストラリア北東部のサトウキビ農家は害虫による被害に悩まされていた。そんな時、オオヒキガエルが害虫を駆除してくれるとわかり、ハワイ経由で南米原産のカエルが102匹導入された。しかし害虫駆除はうまくいかず、カエルばかりが増えてゆく事態に…
オーストラリアを席巻するオオヒキガエルを描いたドキュメンタリー。自然への脅威を描きながらどこかユーモラス。
review

 害虫の被害に対して点滴となる生き物を導入する は農薬を使わない自然な農法として最近もてはやされることもある。それを1930年代にやっていたのだから先進的と言えば先進的だが、まだ生物多様性とか生態系の保護なんていう概念のない時代のこと、いまでは決してやらない外来種の導入するをしてしまった。これもその昔はよくあったこと、沖縄でハブを退治するために導入されたマングースも同じような例である。

 ともかく、その様にして導入されたオオヒキガエルはその繁殖力を生かして、加速度的に増えて行く。導入されたクイーンズランドから西へ西へと進んで行くの。

 ただ、この映画を観る限りオオヒキガエルの脅威というのは限定的だ。オオヒキガエルの問題点は、見た目が気持ち悪いことと、襲われた時に毒を噴射することである。

 前者の問題点は、逆にこのヒキガエルをペットにする人を何人か登場させることで個人の受け止め方の問題として退けられている。後者はペットの犬が死にそうになったという事件が紹介されたり、在来種の動物が減少してしまうのではないかという懸念が表明されている。

 しかし、それでもそんなに深刻とは思えない。在来種のカエルが絶滅してしまうとか、貴重な昆虫が食い尽くされてしまったりしたら大問題になりそうだが、ゴキブリや蚊を食べてくれるので、むしろ歓迎という印象さえ受ける。

 生態系や環境の危機を訴えるのかと思いきや、なんとものんびりとした映画なのだ。なので、なかなか楽しく見れてよかった。

 ただ、そのユーモアというのもなかなか皮肉が効いたというか、「人間のおかしさ」のようなものをネタにしたものだ。カエルの大きさのギネス記録に挑戦しようとして餌を与えすぎてカエルが死んでしまったなんてのは、人間のアホさを笑うネタでしかない。

 そして、さりげなく真面目な問題提起もしている。カエルで失敗した農家は農薬を使うことで害虫駆除に成功するが、その農薬から発がん性物質が見つかり、また害虫に悩まされるようになってしまったという事実がさらりと指摘されるのだ。この事実が示すのはモノカルチュアという農業のあり方が自然や人間に対する何らかの脅威をもたらさずにはいないということだ。

 この映画は別に観る者に警句を発しているわけではない。しかし、この映画からおかしさと同時に感じられる気味の悪さというものが自然と人間の関わり方への疑問表明のように思えて仕方がない。このオオヒキガエルがオーストラリア全土を覆った時位ったいなにがおこるかはだれにもわからない。しかし、その引き金は1930年代に引かれ、もはや誰に求めることはできないのだ。それが自然というものであり、人間の手には余るものなのだ。ヒキガエルを導入した農場主がヒキガエルを操れると勘違いしたように、人間も自然を操れるとずっと勘違いして来た。その考えを正すべきだということはもはや言わずもがな、人間はもっと自然に敬意を払い、その声に耳を傾けるべきなのだ。

 まあ、そんな言葉も15億匹のカエルの前では空々しく聞こえるけれど。

Database参照
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国別・年順: オーストラリア

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